はじめに
時間やお金などビジネスの資源には限りがあります。
豊富な資源を持つ大企業ならいざ知らず、資源が限られている中小企業なら深刻です。
その限られた資源を有効に活用するためには、「誰に売るか?」を明確にするターゲティングが欠かせません。
もしかしたら、ターゲティングを思いつきで行なっていませんか?
ターゲティングは自社の意向だけでなく、ライバル企業の力関係も考えながら決定しなければなりません。
といっても、なんだか難しそうですよね。
そんな複雑で難しそうなターゲティングをたったの3ステップでスマートに簡単にできるのが、マーケティングの父とも言われる、かの有名なフィリップ・コトラーが提唱した「STP分析」です。
STP分析で、漏れなくダブりなく理論的に市場全体を見渡すことで思いも寄らない美味しい市場を見つけることができるかもしれません。
今回は、ターゲティングにお悩みの方に向けて、STP分析をわかりやすく簡単に解説していきます。
なぜ、STP分析が必要なのか?
STP分析とは、誰に売るか?を決定する「ターゲティング設定」を行うものです。
なぜ、ビジネスにおいて、ターゲティング設定が必要なのでしょうか。
みんなに受けるものを売れはいいのではないでしょうか?
なぜビジネスにおいてターゲティング設定が必要かと言えば、それは、現代は物があふれ市場が成熟化し価値観の多様化が進んでいるからなのです。
戦後の物不足の時代から高度成長期で物があふれ、現代は、価値観の多様化が進んでいます。
物不足の時代は、当然、商品の種類が限られていたため、みんなが欲しい物は共通していました。
しかし、やがて、物がみんなに行き渡ると、人々は、物に対して自身のこだわりや世界観を求めるようになってきました。
例えば乗用車の世界もそうでうす。
乗用車が誕生した当初は、セダンタイプが主流でしたが、人々の間に乗用車が行き渡ると、次第に人々は、乗用車に対して、自身のこだわりや世界観を求めるようになってきました。
自動車メーカーは、それに対応するべく、現代では、様々なタイプの乗用車が生まれてきているのは周知のとおりです。
コンパクトカー、ステーションワゴン、SUV、ミニバン、電気自動車、ハイブリッド、オープンカー、キャンピングカーなどなど様々なタイプの乗用車が登場しています。
現代は、顧客の価値観が多様化していますので、昔のように、セダンだけを作って売る時代は、とうに終わっているのです。
どの顧客層にどんな商品を売るのかを明確にしないと生き残れない時代になってきています。
そこで、ターゲティング設定が必要となってくるのです。
そして、このターゲティング設定を効率よく行うために登場したのが、STP分析なのです。
STP分析とは?
STP分析は、近代マーケティングの父と言われるフィリップ・コトラーが提唱した概念です。
STP分析は、フィリップ・コトラーがが提唱した「7P」などと並んで、マーケティングの基礎的フレームワークとなっています。
STP分析は、セグメンテーション(Segmentation)・ターゲティング(Targeting)・ポジショニング(Positioning)からなっており、その頭文字を取って、STP分析と呼ばれています。
Sのセグメンテーションでは、市場の全体像を把握する「市場細分化」を行います。
Tのターゲティングでは、セグメンテーションから狙うべき市場を決定する「標的市場の決定」を行います。
Pのポジショニングでは、競合他社との位置関係を決定する「自社の立ち位置の明確化」を行います。
このページでは、フィリップ・コトラーが提唱するSTP分析をベースに、それに関係する必要な知識も紹介していきます。
それでは、事項からは、詳しくSTP分析の各項目を見ていきましょう。
セグメンテーション(Segmentation)
セグメンテーション(Segmentation)とは?
STP分析の最初のステップ「S」に当たるのは、、セグメンテーション(Segmentation)です。
上記でも述べましたとおり、セグメンテーションでは、市場の全体像を把握する「市場細分化」を行います。
「市場細分化」では、市場を様々な変数でセグメント(塊)に分けます。
セグメンテーションで「市場細分化」を行う場合、家庭で消費される「消費財市場」(BtoC)と、企業で生産に利用される「生産財市場」(BtoB)では、使用する変数が異なりますので、分けて考えていくことになります。
●消費財市場(BtoC)
まず最初に企業と消費者が取引を行う「消費財市場」(BtoC)ですが、「地理的変数」(ジオグラフィックセグメンテーション)、「⼈⼝動態変数」(デモグラフィックセグメンテーション)、「⼼理的変数」(サイコグラフィックセグメンテーション)、「行動的変数」(ビヘイビアルセグメンテーション)の4つの変数の中から選んで 「市場細分化」を行っていきます。
●地理的変数(ジオグラフィックセグメンテーション)
一つ目の「地理的変数」とは、ジオグラフィックセグメンテーションとも呼ばれ、主に、地域(国・都道府県・市町村)、都市規模、人口密度、文化、宗教、沿線、最寄り駅など地理的な軸で消費者をセグメンテーションする⽅法を言います。
主に、店舗の立地場所で売上が変わる⼩売や飲⾷業界、物件の立地場所で販売価格が異なる不動産業界など地理的要素が重要となる業界でよく使われます。
具体的には、上記の地理的変数に属する軸を用いて、市販の地図や国の調査結果などを参考に、消費者を細分化していきます。
例えば、地域の軸を使って地域を東日本と西日本で分けたり、都市規模の軸を使って都市を政令指定都市とそれ以外で分けたり、沿線の軸を使って沿線をJR線と私鉄線で分けるなどしていきます。
● ⼈⼝動態変数(デモグラフィックセグメンテーション)
二つ目の「⼈⼝動態変数」とは、デモグラフィックセグメンテーションとも呼ばれ、主に、年齢、性別、家族構成、職業、学歴、年収、可処分所得など⼈⼝動態的な軸で消費者をセグメンテーションする⽅法を言います。
具体的には、上記の⼈⼝動態変数に属する軸を用いて、統計調査などを参考に、消費者を細分化していきます。
例えば、年齢の軸を使って10代、20代、30代と分けたり、性別の軸を使って女性と男性で分けたり、家族構成の軸を使って子供有りと無しの世帯で分けるなどしていきます。
●⼼理的変数(サイコグラフィックセグメンテーション)
三つ目の「⼼理的変数」とは、サイコグラフィックセグメンテーションとも呼ばれ、主に、価値観、性格、ライフスタイル、購入動機など⼼理的な軸で消費者をセグメンテーションする⽅法を言います。
具体的には、上記の⼼理的変数に属する軸を用いて、アンケート調査やヒアリングを行った結果などを参考に、消費者を細分化していきます。
例えば、価値観の軸を使って節約型と浪費型で分けたり、性格の軸を使って慎重的と楽観的で分けたり、ライフスタイルの軸を使ってアウトドア派とインドア派で分けるなどしていきます。
●行動的変数(ビヘイビアルセグメンテーション)
四つ目の「行動的変数」とは、ビヘイビアルセグメンテーションとも呼ばれ、主に、購入履歴、購入回数、購入時間、購入頻度、閲覧回数などの行動的な軸で消費者をセグメンテーションする⽅法を言います。
具体的には、上記の行動的変数に属する軸を用いて、ユーザーの行動追跡データなどを参考に、消費者を細分化していきます。
例えば、購入頻度の軸を使ってヘビーユーザーとミディアムユーザーとライトユーザーとノンユーザーに分けたり、 購入時間の軸を使って、朝型と昼型と夜型に分けるなどしていきます。
■生産財市場(BtoB)
一方の企業同士が取引を行う「生産財市場」(BtoB)では、「人口動態変数」(デモグラフィックセグメンテーション)、「オペレーティング変数」、「購買アプローチ変数」、「状況要因変数」の4つの変数の中から選んで 「市場細分化」を行っていきます。
⼈⼝動態変数(デモグラフィックセグメンテーション)
一つ目の「人口動態変数」(デモグラフィックセグメンテーション)は消費財市場でも登場しましたが、生産財市場における「人口動態変数」では、主に、業種、規模、地域の軸で生産市場を細分化していきます。
一つ目の業種では、どの業種にターゲットを絞るかを考えていきます。
例えば、顧客となる企業が属する業種・業界・業態、運営主体による民間・公共など業種で市場細分化を行っていきます。
二つ目の規模では、どの位の規模の企業に ターゲットを絞るかを考えていきます。
例えば、社員数や、売上高などの企業の規模で市場細分化を行っていきます。
三つ目の地域では、どの地域にターゲットを絞るかを考えていきます。
例えば、顧客となる企業の所在地、顧客となる企業が製造している商品の利用場所など地域で市場細分化を行っていきます。
オペレーティング変数
二つ目の「オペレーティング変数」とは、主に、製品の使用パターンで 生産市場を細分化していきます。
具体的には、使用頻度、使用量、顧客の能力などの軸を使用していきます。
例えば、使用頻度の軸を使ってヘビーユーザーとミディアムユーザーとライトユーザーとノンユーザーに分けたり、使用量の軸を使って大量使用者と中量使用者 少量使用者と未使用者に分けたり、顧客の能力の軸を使って、サポートが不要な上級者、ある程度サポートが必要な中級者、サポートが多く必要な初級者、初めからサポートが必要な未経験者など製品の使用パターンで市場細分化を行っていきます。
購買アプローチ変数
三つ目の「購買アプローチ変数」とは、顧客企業の購買プロセスで生産市場を細分化していきます。
具体的には、購買方針、購買意欲などの軸を使用していきます。
例えば、購買方針の軸を使って品質重視とコスト重視に分けたり、購買意欲の軸を使って、今すぐ客とお悩み客とそのうち客とまだまだ客など顧客企業の購買プロセスで生産市場を細分化していきます。
状況要因変数
四つ目の「状況要因変数」とは、顧客企業の購入状況で生産市場を細分化していきます。
具体的には、緊急性、受注量などの軸を使用していきます。
例えば、緊急性の軸を使って定期購入企業と不定期購入企業に分けたり、受注量の軸を使って大口顧客と小口顧客など顧客企業の購入状況で生産市場を細分化していきます。
6R
上記の方法でセグメンテーションを終えたら、次に、そのセグメンテーションが本当に使える分類になっているのかを「6R」で評価していきます。
「6R」とは、ランク(Rank)、リアリスティック(Realistic)、リーチ(Reach)、レスポンス(Response)、ライバル(Rival)、レートオブ(Rate of growth)からなります。
各単語の頭文字を取って「6R」と呼ばれています。
一つ目のランクとは、優先順位づけを意味し、分類したセグメントが重要度に応じてランクづけされているかを確認します。
二つ目のリアリスティックとは、実現性を意味し、分類したセグメントで十分な売上高と利益が確保できるかを確認します。
三つ目のリーチとは、到達可能性を意味し、分類したセグメントに商品やサービスを確実に届けることができるかを確認します。
四つ目のレスポンスとは、測定可能性を意味し、分類したセグメントからの反応がデータとして分析可能かを確認します。
五つ目のライバルとは、競合を意味し、分類したセグメントに強力なライバルがいないかなどライバル関係を確認します。
六つ目のレート・オブ・グロースとは、成長率を意味し、分類したセグメントの成長性を既存企業の売上高などのデータをもとに確認します。
ターゲティング(Targeting)
ターゲティングとは?
STP分析の二番目のステップ「T」に当たるのは、ターゲティング(Targeting)です。
ターゲティングとは、一番目のステップ「S」のセグメンテーションで細分化した市場の中から狙うべき市場を決定する「標的市場の決定」することを言います。
一番目のステップのセグメンテーションと二番目のステップのターゲティングの違いは、 セグメンテーションではあくまで市場の「細分化」だけを行い、有望な市場の「選択」は二番目のステップのターゲティングで行うこととなります。
市場カバレッジ戦略
ターゲティングでは、「市場カバレッジ戦略」を使って細分化した市場の中から狙うべきターゲットを決定していきます。
「市場カバレッジ戦略」は、「無差別型マーケティング」、「差別型マーケティング」、「集中型マーケティング」の3つのマーケティングから成り立っています。
無差別型マーケティング
一つ目の無差別型マーケティングとは、細分化した全ての市場をターゲットにし、その全てのターゲットに対し無差別的に同じ商品を提供する方法です。
全ての市場に同じ商品の提供を行うので「フルカバレッジ戦略」とも言われます。
全ての市場をターゲットとするので、経営資源に余裕がある大企業向けの戦略となります。
無差別型マーケティングの例としては、どの年齢層にも同じスポーツドリンクの販売を行っている飲料メーカーなどがあげられます。
差別型マーケティング
二つ目の差別型マーケティングとは、細分化した全ての市場をターゲットにし、その細分化したそれぞれの市場へニーズに合った商品を提供する方法です。
細分化した全ての市場をターゲットにするところは上記の無差別型マーケティングと同じですが、差別型マーケティングでは細分化したそれぞれの市場を差別化し、それぞれに異なる商品を提供するところが無差別型マーケティングとは異なっています。
全ての市場に異なる商品の提供を行うので、「フルライン戦略」とも言われます。
全ての市場をターゲットとするので、無差別型マーケティング同様に、経営資源に余裕がある大企業向けの戦略となります。
差別型マーケティングの例としては、業務用から単身者用、家族用など幅広い市場に対して、それぞれのニーズに合わせた多様な自動車を開発し販売している自動車メーカーなどがあげられます。
集中型マーケティング
三つ目の集中型マーケティングとは、細分化した市場の中から1つの市場を選択し、その市場に経営資源を集中させ、その市場のニーズに合った商品を提供する方法です。
高級品に特化したり、ニッチな市場に強みを発揮するなど特色ある企業が該当します。
集中型マーケティングは、上記、全ての市場をターゲットとする無差別型マーケティングや差別型マーケティングとは異なり、1つの (もしくは少数の)市場に集中すれば良いので、大企業に比べ経営資源に余裕がない中小企業でも可能な戦略となります。
ただし、1つの市場にのみ集中する方法ですので、リスクの分散ができず、その市場が不況になった場合はリスクを被ることとなります。
集中型マーケティングの例としては、富裕層向けにスポーツカーのみを開発し販売している自動車メーカーなどがあげられます。
3C
上記の市場カバレッジ戦略でターゲティングを行う以外にも、マーケティングでよく使われる「3C」でターゲットを絞り込んで行く方法もあります。
3Cとは、市場(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)から成り立っており、各キーワードの頭文字をとって3Cと呼ばれています。
市場(Customer)
一つ目の市場(Customer)では、市場の規模や成長性、収益性などを用いて細分化した各市場をチェックしていきます。
競合(Competitor)
二つ目の競合(Competitor)では、競合の有無や優位性などを用いて細分化した各市場での競合をチェックしていきます。
自社(Company)
三つ目の自社(Company)では、 自社の市場シェアや技術力や資金力やブランド力などを用いて細分化した各市場での自社の経営資源の有効度をチェックしていきます。
ポジショニング(Positioning)
ポジショニングとは?
STP分析の三つ目、最後のステップは、ポジショニング(Positioning)です。
ポジショニングでは、ターゲットとして選定した市場の中に存在するライバル企業の商品・サービスを比較しながら「自社の立ち位置の明確化」を行っていきます。
ポジショニングマップの作成
ポジショニングを決定するためには、ポジショニングマップの作成を行います。
ポジショニングマップとは、2軸からなるマトリックスのことです。
2軸からなるマトリックスを作成することで、複数のライバル企業と自社との関係が一目で分かり、自社の立ち位置を決定することができます。
ポジショニングマップの作成方法は、まず、最初に、顧客目線でライバル企業の商品・サービスに対して自社では何で差をつけるのかでX軸(横軸)、Y軸(縦軸)を決定します。
例えば、高い⇔安い、重い⇔軽い、高級⇔質素、などの軸を用いて、X軸(横軸)、Y軸(縦軸)を決めていきます。
次に、 ライバル企業、そして自社をマッピングしていきます。
できるだけ、ライバル企業と被らない位置に自社をマッピングすることがポイントです。
従って、場合によっては、X軸(横軸)、Y軸(縦軸)を再考する必要も生じます。
このように、ライバル企業と自社との関係を試行錯誤しながら、ポジショニングマップを完成させていきます。
ポジショニングマップ作成の注意点としては、X軸(横軸)、Y軸(縦軸)を設定する時には、 互いに相関性の高い軸を選ばないようにします。
例えば、品質と価格のように、品質が良ければ価格が高くなるのは当然の結果となりますので、同じ内容の軸をX軸(横軸)、Y軸(縦軸)に設定してしまい、せっかくのポジショニングマップが意味をなさない結果となってしまいます。
例えば、自社がライバル企業に比べて極めて安くて高品質の商品を提供が不可能な場合など相関性の問題が発生する場合は、相関性の高い軸は用いないことが賢明です。
まとめ
以上、STP分析を ターゲティングにお悩みの方に向けて、わかりやすく簡単に解説してきましたが、ご理解いただけましたでしょうか。
冒頭でも申し上げましたとおり、時間やお金などビジネスの資源には限りがあります。
豊富な資源を持つ大企業ならいざ知らず、資源が限られている中小企業なら深刻な問題です。
例え大企業のような恵まれた経営資源がなくとも、上記で述べましたSTP分析を行って最適な市場を発見することで、その限られた資源を無駄なく有効に活用していくことができます。
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